【状況によって解決のパターンはさまざま】
共有名義のトラブルを解決するのは、共有名義(共有状態)を解消する以外にありませんが、どのように解消 していくかという解決のパターンはさまざまです。
相談者は、共有者同士でいくら話し合っても意見が一致せず、「話し合いに疲れ果てた」と音を上げている人です。自分がいくら頑張ってもストレスが増すばかりで、何とかならないかとすがってくるのです。
ここでは、比較的よくみられる 7 つのパターンの事例を紹介します。同じようなパターンでも事例で示した 解決プロセスが必ずしも正解とは限りませんが、ひとつの参考として役立てていただければと思います。
【パターン1共有者全員で合意し不動産の全部を売却する(全部売却)】 全員が等しく恩恵を受けるという意味では、最もスムーズな解決方法です。空き家で誰も住む予定がなく、活用もしないのであれば理想的な選択肢です。
父親の死亡後、実家に独りで住んでいた母親が亡くなり、兄弟 5 人が法定相続人となりました。遺産分割 協議書も作成し、持分 5 分の 1 ずつ相続の登記もすませました。実家は空き家なので母親の三回忌がす んだら売却することで 5 人は合意していました。次男は当然のことと思っていたので口約束のまま特に 文書は取り交わしていませんでした。
しかし、三回忌の後に長男は売却ではなく他の兄弟の持分の買い取りを提案してきました。弟たちも長男 が要望するならと応じることにしましたが、いつまでたっても具体的な話をしてきません。催促しても長 男は応じず、このままでは、共有名義の解消ができないので弟たちは困り果ててしまいました。
<問題点のポイント> 口約束だけで文書を交わしていなかったことでトラブルにつながりましたが、問題の根はコミュニケーション不足にあります。話し合いを深めることによって不信感を拭うことがカギとなりますが、身内同士の感情のもつれはなかなかほぐすのが困難です。
<解決策の提案と解決のプロセス> この事例では、弟たちは訴訟を起こすことまで考えているといって相談してきました。しかし、訴訟手続きで費用や時間もかかることから、当方ではもう一度、長男と話し合うことを勧めました。長男と弟たちの間では不信感が生まれてしまっているので、いくら話し合ってもうまくいかなかったのです。そこで、第三者である当方が間に入ることで話し合いが進むようになり、親族間の対立を避けて最終的に兄弟全員が同意し、裁判に至ることなく売却することができました。 【パターン2他の共有者の持分を買い取って単独名義にする(持分買い取り)】 他の共有者全員の持分を買い取って自分の単独名義にする解決方法です。実家(共有名義不動産)に住んでい る共有者がよく望む解決方法です。
父親の死亡後、実家で長男家族と同居中だった母親が亡くなり、相続が発生しました。法定相続人は長男・ 長女・次男の 3 人で、長女と次男それぞれ別の所に住んでいます。共有名義になった実家について 3 人の 主張は次のようなものです。
・長男は、実家を自分名義にしたいと思っており、他の 2 人から持分を買い取ることを望んでいる。ただ し、身内ということで相場よりは安くしてもらいたい
・長女は、自分の持分を長男に売ることには異存はないが、長男の提示価格は安すぎるので、もう少し高 く買い取ってほしい
・次男は、実家は売却して売却代金を 3 人で均等に分けたいと思っている
<問題点のポイント> 買いたい価格と売りたい価格を一致させられるかどうかがカギです。自己持分の売却を希望している共有者 は適正価格(実勢価格より安くてもよいが、ある程度納得のいく価格)であれば身内に売ってもよいと考えて います。一方、他の共有者の持分買い取りを希望しているほうは相場よりできるだけ安く買いたいと思って います。また、主張の違いが感情のもつれに結びつかないように注意することが重要です。
<解決策の提案と解決のプロセス> このような主張の食い違いから議論は平行線をたどり、一向にまとまる気配はありません。相談を受けた当方は、まず不動産鑑定士に依頼して実勢価格を明らかにすることを提案しました。共有者は適正な持分価格について知識不足だからです。 次に、当事者同士だとどうしても金額より前に感情が入り込みやすくなります。親族間トラブルは”ささいなこと〟で根深い亀裂に発展します。ささいなことから過去の兄弟姉妹間のお金の貸し借りや、親から特別扱いされた人間に対する不満がここぞとばかりに湧き起こってきます。こうなると売買価格を冷静に考えることができなくなり、収拾がつかなくなります。
こうしたことに陥らないためには、次のようなことを心がける必要があります。このケースでは、客観的な価格を提示しながら双方の納得を引き出すことでうまく話がまとまり、長男が長女と次男の持分を買い取って共有名義を解消することができました。 ・当事者同士で無理をせず、不慣れな持分価格の算出は専門家(不動産鑑定士)に依頼 ・譲り合う気持ちでお互い”ある程度の価格〟で着地する ・当事者同士で話がこじれたら専門業者に間に入ってもらう ・勘定(価格)と感情を一緒くたにしないこと
【パターン3自分の持分を他の共有者に売却する(持分移転)】 自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう解決方法です。パターン2の逆ですが、解決策の進め方はパタ ーン2と同じです。
父親の死亡後、空き家となった実家を長男・長女・次男の 3 人で相続しました。3 人とも住む予定はない ので、遺産分割協議でどうするかを話し合いました。長女は売却して売却金を 3 人で配分することを提案 しましたが、長男と次男は賃貸に出したいと主張しました。後々賃料の配分を巡ってトラブルになること を恐れる長女は、何度も売却を促しますが、説得ができないまま共有名義状態がずるずると続いていまし た。
<問題点のポイント> 共有者の中で、不動産を活用したい人と売りたい人がいる場合、全員がどちらかに合わせる必要はありません。活用したい人に売るという方法も選択肢としてあります。ただし、買い取り価格を合意できるかが課題です。双方が歩み寄る気持ちが大切です。
<解決策の提案と解決のプロセス> 売却を説得できないものかと長女が相談にきましたが、当方は実家の売却が実現できないのであれば持分を相手側に買い取ってもらったらどうかと提案しました。
実家を売ることしか頭になかった長女ですが、話をしてみると長男は長女の持分を買い取るのはかまわないという意向でした。そこで、当方が不動産鑑定士による持分価格の算出を勧めて客観的な価格が明らかになったことによりようやく話が動き出しました。長男が長女の持分を買い取って次男とともに賃貸に出し、長女は共有状態から離脱することができました。
【パターン4自分の持分を共有者以外の第三者に売却する(持分売却)】 共有者間でどうしても話し合いがまとまらず、自分の受益分を確保したいときに取る解決方法です。
<問題点のポイント> 長女は、自分の持分を長男か次男にしか売れないと思っていました。そのため、どちらかに何が何でも買ってもらいたいと譲らず、一方で長男も次男も、長女の持分を買い取る気がありませんでした。
父親の死亡後、実家を長男・長女・次男で相続しました。実家は 1 階に長男が住んでおり、2 階と 3 階は 空き部屋となっています。遺産分割協議では、2 階と 3 階の処置で意見が分かれました。1 階に住む長男 はビル全体を自分のモノだと言い出し、長女はどちらでもかまわないので持分を買い取ってもらいたい 意向で、独身の次男はビルの 3 階に住みたいと思っていました。3 人の話し合いがつかないまま行き詰ま った長女が相談に来ました。
きに切り札となるのが第三者への自己持分の売却で、多くの場合、共有名義から離脱できる有効な手段となります。
<解決策の提案と解決のプロセス> 当方は、持分を売却するのは身内以外の第三者へも可能だと説明しました。自分の持分だけを共有者以外の他人に売ることなどできないと思い込んでいる人はたくさんいます。さらに、自分の持分だけの売却には、他の共有者の承諾もいりません。ただ、一部売却では権利に制約があるので、全体売却よりは安くなってしまいます。それでも、十分な価格で売ることができますので、共有名義解消の手段として多く利用されています。買い手がいるのかどうかも不安に思うかもしれませんが、通常、市場に売り出されている地域の不動産ならまず心配はありません。 不動産の一部だけを第三者に売れることを知った長女は、これ以上、事態の泥沼化を避けるために第三者である投資家に売却することができました。
【パターン5自分の持分を放棄する(持分放棄)】 自分の受益分の確保にこだわらないときに取る解決方法です。
<問題点のポイント> 自分の共有持分を放棄する方法には、相続放棄のほかに持分放棄があります。持分放棄であれば相続開始か ら 3 カ月を過ぎても行うことができます。持分放棄自体は単独でできますが、持分放棄の登記(持分移転登 記)は他の共有者の同意を得て共同申請しなければなりません。贈与税の対象になることにも注意が必要で す。
<解決策の提案と解決のプロセス>
相続放棄は期限相続開始から 3 カ月)がありますが、持分放棄には期限はありません。持分放棄はいつでも 単独ででき、他の共有者の同意は必要ありません。放棄した持分は他の共有者に持分割合に応じて振り分け られます。
当方は、相続放棄は 3 カ月の期限が過ぎていること、持分放棄は可能だが、自分の持分だけ売却することも 可能だということを説明しました。長女は持分売却だと第三者が共有者となることで兄弟たちとトラブルに したくないし、自分はお金も入らなくていいということで持分放棄の選択を希望しました。
そこで、当方から長男と次男に、持分放棄の説明と「贈与税はかかるが、今後資産の値上がりが期待できるため、将来売るときには売却時の税金が安くなる可能性が高い」といった話をしました。 父親が死亡して、実家を長男・長女・次男で相続しました。しかし、実家の土地は複雑な形状をしており、 どの部分を 3 人でどう分けるかで話し合いがつきません。長引く協議に嫌気のさした長女は対価はいら ないから相続放棄したいと考えるようになりましたが、3 カ月はとうに過ぎているので相続放棄はできません。
その結果、長女は長男と次男の同意を得て持分放棄の登記をしてもらい、共有状態を離脱することができました。
【パターン6ひとつの土地を複数の土地に分ける(土地の分筆)】 家が建っている実家の土地では難しいですが、建物部分以外にある程度の土地(更地)がある場合は、土地そ のものを分けてしまう分筆も選択肢のひとつです。
<問題点のポイント> このように建物がある場合は、持分どおりの土地分割が難しい場合があります。現物分割は、等分割りが原則ですが、差額を金銭で払うことによって平等さを保ち、分割部分を増やすという解決方法が取れる場合があります。
<解決策の提案と解決のプロセス>
このケースでは、2 分の 1(30 坪)ずつ土地を分筆すると建物が両方にかかってしまいます。建物の建ってい る 4 坪分の土地を所有しないと使い勝手が悪いという兄の要望はある意味で自然なものです。
ただ、妹としては、要望自体は理解できるものの自分だけが一方的に譲って損するのには納得がいきませんでした。 もともと相続時点では兄も妹も住む予定はなく、妹としてはいずれ売却するつもりでした。
どうしても話し合いがつかなければ妹が自分の持分だけを売ってしまうという方法もありましたが、当方は、必ずしも等分にしなくても対価をきちんと主張して分筆をし直したらどうかという提案をしました。
当方が間に入ることによって、兄も妹に譲歩する姿勢を示し、10 坪分の対価を兄が妹に支払うことで兄 4 坪、妹 20 坪で分筆することになりました。その後、共有状態を解消した妹は 20 坪の土地を売却すること ができました。
<パターン7パターンの訴訟で強制的に分割する(共有物分割請求訴訟)> 当時者同士でどうしても話し合いによる解決ができない場合に、訴訟を起こし、裁判所の判決により強制的に共有状態の解消を図る解決方法です。
父親が死亡して、残された実家の 60 坪の土地を兄と妹で相続しました。父親は遺言書で 2 分の 1 ずつの 相続を指定していたため、そのとおりに相続登記をしました。その後、兄は実家に住むことになり、建物 の建っている 40 坪分の現物分割を要求してきました。妹は兄の強引な要求に困り果てて相談に来ました。
母親が死亡して、残された実家に母親と同居していた長男が住んでいました。相続人はほかに長女・次女・ 次男です。住んでいない 3 人は持分の買い取りを長男に求め、買い取らない場合は実家の売却を望んでい ました。しかし、長男は買い取りにも、実家の売却にも応じてくれません。やむなく、3 人は裁判所に共 有物分割請求訴訟を申し立てました。
<問題点のポイント>
感情によって当事者間の関係がこじれてしまった場合、いくら頑張っても合意することができなくなります。裁判所による調停でも合意はほとんど難しく、最後は強制競売になり全員が損する結果になります。訴訟に至らないように早い段階で取り決めを具体化して書面を取り交わしておくことが大切です。
<解決策の提案と解決のプロセス> 訴訟による解決は最終手段であり、ここまで来ると円満解決はまず難しくなります。根底にあるのは損得ではなく感情のもつれですから、いくら話し合おうとしても双方ともファイティングポーズを崩そうとしません。
このケースの場合も、最終的には実家は強制競売となり、売却されることになりました。実家の市場価格は 4000 万円でしたが、3200 万円でしか落札されず、全員が損する結果となりました。
このように、共有者全員の痛み分けで幕を下ろすしかなくなります。 しかも共有名義解消は実現しても、感情の憎悪はずっと引きずっていくことになるのです。
そのため、解決策は訴訟そのものよりも、相続の最初の段階でしっかりと取り決めをしておくことに尽きます。期限を定めて利用形態を決めたり、いついつまでにこの約束が守られなければこうするといった約束事を早い段階で決めて書面化しておくことが大切になります。